鉄塔の背を追って
誰もいない山道に
鉄塔の影が落ちていた
それはまるで 空からの糸
私を引く 見えない手
導かれるままに 歩き出す
経山の裏手は 記憶の裏側
いつもと違う道は
いつもの山を 知らない顔に変える
見慣れたはずの風景が
今日だけは よそよそしい
尾根に出ると 風が強くなる
鉄塔が 空を貫いて立つ
その無骨な姿に
なぜか 安心する
変わらぬものが そこにある
高丸山へと続く道
草をかき分け 影を踏み
私は 鉄の背を追いながら
自分の輪郭を 確かめていた
この道が 私を映していた
山を下りると 鉄塔は遠ざかる
だが その背中の記憶は
私のなかで まだ立っている
風のなかに 細く揺れながら
次の道を 照らしている
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異路識山(いろにしてやまをしる)
舊嶺久徑入
鐵身立碧空
無聲如導我
幽?影相同
書き下し文:
きゅうれいに久徑(きゅうけい)を入(い)り、
鉄身(てっしん)碧空(へきくう)に立(た)つ。
声無(こえな)くして我を導くが如(ごと)く、
幽(ゆう)なる歩に影(かげ)相(あい)同じ。
訳:
なじみの山に、久しぶりの道から入る。
鉄塔が青空に静かにそびえ立ち、
何も語らぬその姿が、まるで私を導くようだ。
静かな歩みのなか、影がそっと寄り添ってくる。 |