写真が語り、AIが詩にする山旅(9)


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6月1日 三平山

稜線へ続くひとすじ

稜線は静かに
空の青を抱き
草の海は
風の手でゆるやかに揺れていた
ひとすじの道だけが
遠くへ続いている

その道のほとりで
白い花がひらく
尾根の風を受け
光をまといながら
歩く者の影を
そっと照らすように

登山口の花は
まだ静かに息をして
尾根の花は
空の高さを知っていた
同じ白でも
抱く風がちがっていた

つるをのばし
枝をたよりに咲く花よ
その白さは
季節の灯りのよう
稜線へ続くひとすじを
今日もまた示していた
稜線花語(りょうせん かご)

風静稜線上
白花迎旅人
同根抱異風
一径示前途

読み下し文:
ふうせい りょうせんのうえ
はっか りょじんをむかえ
どうこん ことなるかぜをいだき
いっけい ぜんとをしめす

意 : 
稜線の風は静かで、
白い花は歩く者を迎え、
同じ花でも抱く風は違い、
ひとすじの道が行く先を示していた。

6月4日 道後山

草原の道、空へつづく

草原の道、空へつづく
振り返れば
大山が、今日だけは
世界の中心に立つように
くっきりと姿を見せていた。

その手前には
淡青の層を積む遠山が
静かな呼吸のように
幾重にも重なり、
光の深さをゆっくりと変えてゆく。

山々は
空へ向かうほどに薄く、
薄くなるほどに
どこか懐かしい気配を帯び、
胸の奥の遠い記憶を
そっと揺らしていった。

小径は
その青の重なりを受けとめながら
空へ向かって
ひとすじの線となってのびてゆく。
大山照遠色(だいせん とおきいろをてらす)

大嶺晴光立  
青層抱遠山  
草径通空処  
心随白雲閑

読み下し文:
たいれい せいこうに立ち、
せいそう えんざんを抱き、
そうけい そらに通ずるところ、
こころ はくうんにしたがいてしずかなり。

意:
大山は晴光の中に立ち、
青の層は遠山を抱き、
草の径は空へと通じ、
心は白雲とともに閑かに遊ぶ。

6月9日 花見山

霧と花のあいだを歩く

霧が草原をそっと包み
足もとだけが かすかに見える
静けさの底で
世界はまだ 息をひそめている

やがて霧がほどけ
濡れた花びらが ひとつまたひとつ
草の間から顔を出す
黄色 紫 白
色の息づかいが
静かな朝にそっと灯る

森へ入ると
風がひとすじ通り抜け
木の葉の雨滴が
ぱらぱらと落ちては消え
すぐに静寂が戻ってくる
その静けさの中で
枝先の小さな花芽が
「ここにいるよ」と
控えめに わたしを迎えてくれる

そして山頂へ
霧がひらけ 空が広がる
花も森も すべてが背中にあるのに
その気配だけが
まだ足もとに寄り添っている
今日という道を
静かに歩き終える
山気在吾心(さんき わがこころにあり)

濡花迎行客
幽枝点緑陰
滴落還成寂
山気在吾心

読み下し文:
濡れたる花 行く客を迎え
かすかな枝 りょくいんをともす
したたり落ちて またしずけさとなり
山気 吾が心に在り

意:
濡れた花が歩く者を迎え
灌木の枝先が緑陰を点じ
雨滴が落ちては静寂に戻り
山の気配が わたしの心に宿る

6月13日 立烏帽子山・池の段

山の懐に抱かれた旅 

今日という日は
花と風と空が
ひとつの器に集まった日

コアジサイの青
ササユリの白
草の実のかすかな重み
どれもが
山の手紙のように
そっと差し出されていた

池の段の広がりは
心の奥まで届き
遠くの峰の影は
旅の終わりをやさしく照らした

山に抱かれ
山に見送られ
ひとつの季が
胸に刻まれた
山懐静旅(さんかい せいりょ)

花影風中立
香微路更深
遠峰浮淡影
心随静光沈

読み下し文:
花影 ふうちゅうに立ち
香り微かにして 路さらに深し
遠峰 淡影に浮かび
心は静光に随いて沈む

意:
花の香が風に散り、
その幽かな香りが歩く身に染みる。
四方を見渡せば晴れの色が広がり、
心は山の懐へ帰っていく。

6月17日 擬宝珠山・象山

緑雨の気配

草の道は
音を吸い込むように柔らかく、
枝葉は
空の灰色を映していた。

白い花は
濡れたように透き、
山の斜面は
深い息をひそめている。

遠くの峰は
雲に隠れたまま、
その不在が
かえって山を満たしていた。
雲隠山心(うんいん・さんしん)

草路含緑雨
白花映灰天
遠峰雲裏没
不在更盈然

読み下し文:
そうろ りょくうをふくみ、
はっか かいてんにえいず。
えんぽう うんりにぼっし、
ふざい さらにえいぜんたり。

意:
草の道は緑雨を含み、
白い花は灰色の空に映える。
遠い峰は雲の中に沈んだまま、
その“不在”がかえって山を満たしていた。

6月29日 高滝山

森の息をきく

森の息をきく
雨あがりの土が
まだしっとりと
歩みを受けとめてくれる

葉の裏に残るしずくが
ひとつ落ちて
胸の奥の静けさをひらく

森の息をきく
石段の苔が
長い季節を
静かに積み重ねている

像のまなざしが
森の影とまじりあい
時の深さを伝えてくる

森の息をきく
下りの道に
落ち葉の匂いが
帰り道の気配をひらく

ふり返れば
緑の影が
まだそこに息づいていた
林潤心静
(りんうるおいて こころしずかなり)

雨餘林氣潤
苔路受行人
深處無聲語
心同山影真

読み下し文:
雨の餘りて 林の氣潤い
苔の路 行人を受く
深處 聲語無く
心 山影と同じくして真なり

意:
石段には古い気配が宿り、
像の影は森と溶け合う。
落ち葉の匂いが帰り道をひらき、
その香りは静かな風に残る。